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新薬開発は時間と費用の負担が大きいけど製薬会社は研究をあきらめない

新薬開発は時間と費用の負担が大きいけど製薬会社は研究をあきらめない

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9~17年かかる新薬開発までの道のり

新薬開発新薬は厳密なプロセスを経て患者の手に届く
医療のニーズを満たすような新薬は、基礎研究や各種試験と国による承認審査という厳密なプロセスを経て、初めて患者が手にすることができます。

日本では、1つの医薬品を開発するために必要な期間は10年以上であり、その間の費用は約500億円といわれています。昔と比較すると、研究開発に要する期間は長期化する向にあります。


全業界の中でも医薬品業界の研究開発費はもっとも高い
医薬品研究開発はなかなか成功しない
新医薬品の研究開発には、長い年月とプロセスが必要です。しかも、新医薬品の研究開発は成功確率がきわめて低く、有効性と安全性を両立させるために多額の研究開発費を必要とします。

研究開発型の医薬品企業が所属する日本製薬工業協会(製薬協)によると、加盟大手20社の売上金額に対する研究開発費比率は平均で14.6%、医薬品産業全体の研究開発費比率でも10.95%と、他の産業に比べ高くなっています。

次のように、医薬品はいくつもの厳しいプロセスを経て市場に出ていきます。

①基礎研究(2~3年)
植物・鉱物・動物などの天然素材から抽出する方法や、バイオテクノロジーなどで化学的に合成する方法によって、医薬品となりそうな化学物質が医薬品となるかどうかの可能性を調べる研究です。

最近はゲノム情報の活用も進められています。創り出した化学物質の性質や化学構造を調べ、スクリーニング試験を行ない、医薬品として可能性の高いものだけが非臨床試験へ進めます。

②非臨床試験(3~5年)
医薬品となる可能性の高い化学物質を対象に、動物や培養細胞を用いて有効性(薬効)と安全性(性)を研究します。また、物質の動態( 吸収・分布・代謝・排泄の過程) や、品質、安定性に関する試験も行ないます。

③臨床試験(3~7年)
非臨床試験をクリアした医薬品の候補物質
(治験薬) について、初めて人に使用する段階です。臨床試験(治験) は、病院などの医療施設で健康な人や患者を対象に同意を得たうえで、症例数を集めて試験を行ないます。

集まった症例データを分析して、有効かつ安全なものかどうかを調べ、医薬品としての可否を判断します。

④承認申請と審査(1~2 年)
医薬品の候補物質が有効性・安全性・品質が証明されたあと、医薬品として製造・販売の許可承認を得るために厚生労働省に申請します。薬事・食品衛生審議会などの審査を通過すると、医薬品として患者の手元に届くようになるわけです。


研究開発費ランキングトップ20
1つの新薬を開発するためにかかる費用は、約500億円といわれています。

製薬協によると、製薬企業大手10社の平均開発費用は、1999年では433億円でしたが、2006年では858億円になっています。

製薬企業のM&Aもありましたが、上位10社の平均研究開発費用は1300億円を超え、すこし広げて20社平均でも約800億円と、上位の20社合計で1兆5千億円以上もかかっているのです。

近年では、新薬を発売するためにはさらなる安全性を求められ、画期的な新薬を発売することがむずかしくなり、研究開発費が上昇している現状が見えてきます

1 武田薬品工業 4,530.5(億円)
2 第1三共 1,845.00
3 アステラス製薬 1,590.60
4 エーザイ 1,561.10
5 大塚ホールディングス 1,359.00
6 田辺三菱製薬 731.2
7 中外製薬 532.3
8 塩野義製薬 528.2
9 大日本住友製薬 528.2
10 協和発酵キリン 426
11 小野薬品工業 383.8
12 味の素 338
13 大正製薬 275.2
14 参天製薬 184.6
15 キッセイ薬品工業 115.6
16 明治製菓 114
17 キョーリン 105.3
18 久光製薬 96.2
19 ヤクルト本社 92.5
20 持田製薬 87.6


研究・開発、バイオベンチャーで活躍する薬を創る人々
長期にわたる研究開発売できるようになるまで、一般的に10年~20年の歳月を必要とする研究開発が行なわれており、この期間はますます長期化する傾向にあります。

おもな研究・開発機関には、製薬企業の研究部門や開発部門があり、最近ではバイオベンチャーもあります。OlS門研究部門は大きく2つに分かれます。

1つは「基礎研究」であり、自然界に存在している物質を抽出したり、科学技術によって化学合成したりし、医薬品の候補となる化合物をスクリーニング(選別)して、医薬品としての可能性を調べます。

もう1つは、「非臨床研究」です。この可能性のある化合物の有効性と安全性を研究するために、動物や細菌を用いて試験をします。
この研究において、おおよそ5年から10年の歳月を必要とします。

開発部門
医薬品としての可能性を見い出された化合物を、人にとって有効性と安全性を併せ持ったものかを開発部門が「臨床試験」や「治験」で調べます。

病院など医療施設で、治験に同意した健康な人や患者を対象にデータを収集し、比較分析して医薬品として市場で販売できるかを検討します。

発売できると判断したもののみ厚生労働省に対して承認を得るために、データなどの書類をそろえて申請を行ないます。審査を通過して承認を得られると、医薬品として初めて製造・販売可能になります。この開発で承認を得られるまでに、5年から10年かかるといわれています。

ただ、厳正な審査が行なわれるために、申請してもすべてが承認されるわけではなく、近年では、審査してから承認を得られるまでの期間が短くなる傾向があります。

バイオベンチャー
バイオベンチャーと呼ばれる企業も増えてきました。ただし、バイオベンチャーの定義が明確になっているわけでないため、対象のジャンルは幅広く、化学、農業・食品、環境、器機・デバイス、バイオITなどの分野もあり、その1つに医薬・創薬があります。

大学や企業でバイオテクノロジー(生物学的技術)を研究している人たちが、病気の治療や産業的に役立つ製品や技術を実用化するために起業することが多く、財団法人バイオインダストリー協会によると、日本国内に500~600社あるといわれています。


製薬会社と大学の研究室は密接に関係している
薬が売れないと成り立たないのは、製薬会社だけではありません。
製薬会社は、その利益によって、みなさんの想像の届かないところにまで、大きな影響を及ぼしているのです。

たとえば大学の研究室。製薬会社から多額の寄付を受けていますから、製薬会社に儲けてもらわなければ、研究費を確保できません。

今や、大学だけで研究費をまかなうことは不可能です。何らかの寄付(研究費)を製薬会社からもらわなければ、まっとうな研究を続けられません。つまり製薬会社と大学の研究室は、一つなのです。

とくに最近流行りの寄付講座などは、もろに影響を受けてしまいます。言うまでもなく企業の寄付で講座が成り立っているからです。

となれば、大学、つまり研究者(科学者)が製薬会社(薬)を批判することは、非常にむずかしくなります。何も批判のために批判しなくてもいいのですが、正当な評価すらなかなかやりづらいというのが、現状だと思います。

製薬会社に頼っているのは、もちろん研究者だけではありません。
政治家やお役人たちもしかりです。

多額の献金や、安穏な天下り先を失うことは、誰も望みません。選挙の資金や票数、そして再就職先…。直接、自分自身の台所事情にからんでくる話になると、正論など、たちまちどこかへ追いやられてしまうのが現実なのです。

さらには、メディアも例外ではありません。
大スポンサーである製薬会社を怒らせると、メディアの明日はありません。したがって、こと「薬信仰」に関するニュースや批評に対しては、ほとんど骨抜きになってしまうのです。

こうして結局、わりを食うのは、いつもいつも、何も知らされていない一般国民ということになってしまうのです。


医薬品の開発に利用されるよい副作用
医薬品を開発するにあたって、 しばしば面白いエピソードもあります。OTC医薬品に睡眠改善薬(ドリエルなど)がありますが、成分を見ると「塩酸ジフェンヒドラミン25mg」と書かれています。

このジフェンヒドラミンは、医療用医薬品では10mgとして皮膚のかゆみやアレルギー性鼻炎などに使われる、「抗ヒスタミン薬」の1つです。この抗ヒスタミン薬には、副作用として「眠気」があるため、自動車の運転や機械の操作をしないよう服薬指導しています。しかし、この眠気を効能として利用したのが睡眠改善薬なのです。

ほかの薬剤では、勃起不全(ED)の治療薬「バイアグラ錠25mg・50mg」も副作用を効能として利用したものです。

成分であるシルデナフィルは、当初は狭心症の治療薬として研究。開発が始まりました。しかし、臨床試験において狭心症での血管拡張作用は少ないと判定されたものの、副作用として陰茎の血管を拡張し、勃起を促進する作用が認められたため、これを適応症として発売されることとなったのです。

このようにシルデナフィルは、陰茎に限らず血管拡張を促進させる作用があることから、現在では「肺動脈性肺高血圧症」への適応症も取得し、「レバチオ錠20mg」として販売されています。


研究・開発職の仕事
医薬品企業の研究・開発職の仕事とは、ある病気の原因となっているターゲットを特定し、その治療に貢献する新薬のシーズ(種)を作ることです。したがって、主に基礎研究や非臨床試験を担当することになります。 基礎研究の段階では、新規物質を探索して創薬をするのが仕事です。

この基礎研究を担当する人のことを限定して研究職と称することもあります。 非臨床試験の段階では、①新規物質の有効性の検討や物質的性質の検討を行い、新薬候補物質を選別する仕事、②安全性や薬物動態の初期検討を行う仕事、を主に担当する。

具体的には、①では、簡単な動物試験で有効な物質を見つける、どのくらいの投与量で効果が出るのかを調べる、などの仕事を行っています。

②では、有害な副作用は出てこないか、体内のさまざまな部分にどのような影響をおよぼすのかなどについて調査する仕事を行います。


研究・開発職に就くには
研究・開発職には、分子生物学、薬理学、病理学、発生学、分析化学、情報科学などの幅広い基礎知識と、担当する研究・開発業務に関する高度な専門知識が要求されることになります。

たとえば、新規物質の有効性や物質的性質の検討を行い、新薬候補物質を選別する仕事では、スクリーニングや薬理学に関する高度な知識を要求されることになるでしょうし、安全性や薬物動態の初期検討を行う仕事では、分子生物学や病理学、薬理学に関する幅広い知識を要求されることになります。

そのため、研究・開発職になるには、担当する研究・開発業務に関連する、薬学、理学、化学、生物学などの高度な専門知識を修得できる大学院修士課程、博士課程を修了することが必要になります。


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