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ゲノム創薬開発はどこまで進んでいる?現実までは意外と早

ゲノム創薬開発はどこまで進んでいる?現実までは意外と早い

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ヒトゲノムの解明や分子レベル研究の進歩で創薬が変わる

偶然から標的の開発へとシフトしている
医薬品としての新規物質を発見するためには、天然素材からの抽出や類似化合物の合成やランダムスクリーニングによる、セレンディピティ(偶然発生した現象から、目的とは別の価値を見出す能力のこと)によるものが多かったといわれています。

たくさんの低分子化合物(分子量は数十~数百)から医薬品候補物質を発見する確率は0.1%以下といわれ、いわば時間と費用と労力を費やして1つの医薬品としての新規物質を見つけていたわけです。

しかし、現在主流になりつつあるのが、病気の原因解明とともに病気の発症に関与するタンパク質の立体構造を解析し、その活性部位に特異的に働く作用を持つ化合物をドラッグデザインして創り出す方法です。

ヒトゲノムの解明や体内の分子レベル研究の進歩により、がん細胞の増殖や炎症にかかわる遺伝子やタンパク分子を標的として、特異的に攻撃して疾患の原因を治療する「分子標的薬」と呼ばれる医薬品が登場しました。

これらの医薬品は、免疫の抗体や細胞の核酸を利用するタンパク質を主成分としているため、高分子量(分子量は数十万)であり、「抗体医薬」や「核酸医薬」と呼ばれ、今後期待されている領域なのです。

ゲノム創薬
遺伝子のDNA塩基配列を解読することによって、病気の発疱にかかわるタンパク質などの構造を解析し、新たな医薬品を創り出す試みがゲノム創薬です。

DNA二重螺旋には、人間を含め生物の構造や機能など遺伝情報が保存されています。
生物の活動は、さまざま機能を持ったタンパク質を生成し、ホルモン、免疫、神経伝達物質などの放出は、各特定部位の遺伝子によってコントロールされています。

このタンパク質のバランスによって、生物の活動が維持されているわけですが、食事や化学物質および生活環境やストレスなどの外的要因や、遺伝的な内的要因によってバランスが崩れると、さまざまな病気を引き起こすことになるのです。

病気を引き起こす原因やメカニズムが、遺伝子レベルおよびタンパク質レベルで解明されれば、原因となるメカニズムを標的とした画期的な新薬が創り出される可能性が高まります。

また、個人の病気のかかりやすさが解明できれば、「オーダーメイド医療」が可能となり、病気の早期発見・早期治療、さらには未然に病気を防ぐことが可能となるかもしれません。

来るべきゲノム創薬時代に備えて何をすべきか
ゲノム創薬は医薬品業界に大きな影響を与える。
現在、世界中の研究機関や大手医薬品メーカーがしのぎを削って研究開発に邁進している。まだ開発というレベルではないが。

大手医薬品メーカーにとっては、現在の生成化合物によるブロックバスター型の新薬開発の手法が限界に来ており、次の世代の医薬品開発として、遺伝子レベルでの創薬の必要があるため、積極的に研究に取り組んでいる。できれば世界で初めてゲノム創薬を作ったという栄誉もほしいだろう。

彼らはダイレクトにゲノム創薬に関わっているが、あまりに先端的な研究だから、これに直接関わる医薬品メーカーは大手に限定される。はっきり言えば、中堅以下には無縁の話と考えられている。

ゲノム創薬の仕組みも解明されていない現状では確かにそうだろう。当面のパイプラインを確保するだけで精一杯という中堅メーカーもあるだろう。

しかし、ゲノム創薬に関しては間口は広いし、関わりも膨大になることは間違いない。もちろん中小メーカーでもダイレクトにポストゲノムに取り組むことができればベストなのだが。

単なる医学、薬学だけの世界ではなく、化学、生物学、物理学、動物学などなど、あらゆる学問に関わる問題だし、技術的にも、最先端のコンピュータ技術は不可欠だし、医療機器や製造機器の高度化も必須になってくる。

またポストゲノムが解析されていく過程で、それまで様々な事情で捨てられていた新薬候補物質が、ゲノム創薬に効果的である場合もでてくるかもしれない。

中堅以下の医薬品メーカーにとっても、自分かちが持っている経営資源がどうゲノムに関係してくるかわからないのだ。ポストゲノムに関係した技術やパイプラインを持っていたとしたら、これは外資や大手から狙われるきっかけとなる。

そうした意味では中小メーカーでも、対岸の火事としてポストゲノムを見るのではなく、神経を集中してその進展を見守っていかねばなるまい。

特に巨大外資はポストゲノム分野で激しい先陣争いをしており、必要な技術は是が非でもほしいところだし、自ら開発する手間を省きたいし、時間を買いたい。

そうしたところから、一本釣りのような形で、中堅以下のメーカーのM&Aが活発化する可能性がある。特にバイオベンチャーなど研究開発型のベンチャー企業は大手の草刈り場になると考えられる。むろん、こうした医薬ベンチャーは売り手市場になることは必至。

むろん医薬品メーカーだけではなく、医療機器メーカー、精密機器メーカー、化学メーカーなど、多様な分野に関わってくるポストゲノムだけに、特に高技術を持つところや研究開発型の企業は常に狙われるリスクを抱えている。

ゲノム創薬開発はどこまで進んでいる
三年ヒトゲノムの32億にものぼる塩基配列が解読され、医薬品研究はポストゲノムの時代に入っている。

生物の細胞内の染色体などに含まれる遺伝情報を「ゲノム」といい、生物を構成する根幹のプログラムのようなものだ。

皮膚、筋肉、内臓などを構成する細胞があらかじめ決められていて、混合されないのはこの遺伝子情報に洽ってそれぞれのたんぱく質が作り上げられ、きちんと配列される。

もしゲノムがきちんと働かなければ、人間はアメーバみたいなぐにゃぐにゃの存在になっているだろ人間のDNAを構成するのはA (アデニンさ)、T (チミン)、C (シトテノ)、G (グアニン) の四つの塩基で約30億個も並んでいる。ここまではゲノム解析でわかった。

次の段階として、このDNA遺伝子の配列の情報を元にして生成されるたんぱく質や糖質や脂質、それらの組み合わせで構成される生体膜、人体を構成するあらゆる物質が、どう成り立ち、どう相互に作用しているのかを分析しようとしているのが、現在のポストゲノムの時代である。

その過程で、病気に関連するたんぱく質を解析し、それがDNA遺伝子とどう関わっているか、その遺伝子がどう機能しているかを解析し、遺伝子が支配するそのたんぱく質に結合して働きを阻害したり、逆に働きを促進したりする、あるいは遺伝子そのものに働きかける薬を開発するというのがゲノム創薬だ。

遺伝子レベルで病気の原因を取り除けば、人体への副作用もなく、病気そのものを根絶できる。

たとえば、DNAとよく似た構造を持つRNA (リボ核酸)は、HIVの媒介となっているというから、HIVを根絶するには、ゲノム創薬が不可欠になってくる(現在のHIV治療薬は進行を抑える類のもの)。

また現在の医学では治療不可能な難病も、ポストゲノム解析を通じて、ゲノム創薬によって可能になる。そのくらいゲノム創薬の効果はいまの医薬品の比ではないということだ。

ある意味、病気と薬はいたちごっこのような歴史があり、新しい病気が生まれればそれを治療する薬ができ、それが効かない病気が出てきて、さらに治療する薬ができる。

というように、次から次へと立ちはだかる病気という壁に立ち向かっていくことで、医学、医薬品は発達していった。そのいたちごっこをこのゲノム創薬は断ち切る可能性があるのだ。

もちろん膨大な遺伝子の組み合わせによって病気の原因となる遺伝子を決定する、その気の遠くなるような研究の、さらに先には病気の原因となる遺伝子に働きかける物質を薬として作り出す必要がある。しかも、その遺伝子だけに働きかける薬でなければならない。

糖尿病になる遺伝子がわかれば、その遺伝子の働きを阻害する物質を薬として与えれば、糖尿病にはならない、というわけだ。世界の人類の英知がいま、競って研究にしのぎを削っているが、今の段階ではめども立っていないのは、それがいかに苦難の道なのかがうかがえる。

ポストゲノム創薬の実現は意外に早い
ゲノム創薬が世に出るには、まだ当分先のこと。早くても10年はかかるのではあるまいか。

現在はまだヒトゲノムの解析を受けて、DNA遺伝子情報の解析の段階で、実際、ポストゲノムの特許出願は、科学技術振興機構、産業技術総合研究所、理化学研究所、といった半官半民の研究期間が中心だ(ちなみにトップはバイエルの604件でダントツ)。

ゲノム創薬はまだまだ基礎的研究の段階といえる。
医薬品メーカーも国内大手、巨大外資にかかわらず、ゲノム創薬に邁進しているが、今のところ際だった成果を上げているところは乏しい。特許や開発の段階での企業秘密の関係もあって、開発状況は外部にはなかなか把握できないでいる。

一部には動物実験や初期の治験レベルまで入ったところもあるとも言われるが、その場合でもピンポイントでゲノム新薬を手がけたものと思われ、解析が完了して、恒常的な開発体制を整えたわけではあるまい。

治験の方法も従来とは変わってくるだろう。ゲノム創薬はいわば理論的に効能がはっきりしている。

効くことがあらかじめわかっているから、治験の患者の選び方や治験の期間、方法なども新たなものになる。しかも、それに応じて、行政の承認体制も変わってくる。

仮に今、ゲノム新薬を承認申請したとしても、厚生労働省は対応できない。その新薬をどう評価するか、どういう基準で薬価をつけるか、従来の医薬品の評価手法とはまったく違ってくるからだ。

おそらくゲノム創薬は医療とセットになるのではないかと考えられ、特定の遺伝子を持つ患者には投与できる、できない患者もいる、ということになれば、薬価も安全管理も従来型とは違ってくるだろう(特定の患者にはダメージになることもありえる。

患者一人一人にあわせた医療を行うテーラーメード医療(オーダーメード医療ともいう)では、骨格や体格、体質、血液型などの条件で個人個人向けに医薬品を投与する。

こうしたアナログ的な条件分けでは医療の現場ですでに臨床段階に入っているところもあるが、本質的にはその個人個人が持つDNA遺伝子を解析し、それに応じた投薬というレベルにならなければ、テーラーメード医療としては中途半端。

特定の遺伝子に向けて医薬品を開発するのだから、従来型の医薬品の大量生産は難しい。ピンポイントで投与するとなれば、単品としての医薬品生産は最小限に、そして薬価は最大限に高くなる、というつけ方にならざるを得ない。

ただ、テーラーメート医療も臨床段階に入っているところあるし、DDS(ドラッグデリバリーシステム)も、日本化薬などが抗がん剤でナノレベルの粒子化して患部に届くようにするという臨床治験を行っている。

さらにヒトの皮膚細胞から万能細胞を作り出すというノーベル賞級の技術を京都大学が中心になって開発した。万能細胞というのは、いわば初期化したDVDディスクのようなもので、万能細胞に情報を書き込めば、神経細胞になったり、心筋細胞になったり、筋肉細胞になったり、身体の様々な細胞になり、再生医療に大きな道を開くことになる。

このように医療の最先端は一歩一歩確実に前進しているのである。これに民間企業の利益追求が重なるから、ポストゲノム創薬の実現は意外に早いかもしれない。


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