医者は薬のエキスパートではないので腕がいいほど薬を処方しない
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医者は「薬のエキスパート」ではない
そもそも医学部には、薬の処方を教える授業などほとんどないのです。では誰が「薬のエキスパート」になるのか?薬学部の学生です。
つまり、あくまでも、医者は「病気のエキスパート」なのであって、「薬のエキスパート」は薬剤師なのです。
医者は、病気にはくわしいけれど薬にはくわしくない。
薬剤師は、薬にはくわしいけれど病気にはくわしくない。
もともとは、医者と薬剤師がお互いに協力して医療に当たるための棲み分けなのでしょうが、両者の連携がうまく成り立たなければ意味がありません。ところが現状を見ると、その連携があまりうまくいっていないケースが多いのです。
だからよけいに、今の日本で薬を飲むということが、非常に危うい行為になってしまっているのです。
もちろん、医者も自分の専門科目で用いるごく少数の薬については、それなりにくわしいのかもしれません。
ですが患者はその専門科の薬だけを飲んでいるとは限りません。むしろ、専門科以外の薬を数多く飲んでいるケースのほうが、圧倒的に多いのです。
だとすれば、いろいろな分野の薬についても、それ相当の知識や経験がなければ、安易に薬を用いることなど、恐ろしくてとてもできません。
もし仮に処方するとしても、綿密な下調べをしてから、慎重に慎重を重ねて処方します。通常の感覚を持っている医者であれば、これが当たり前の行動です。
その際に、もっとも大切なことの一つは、「さじ加減」です。
もちろん、医者は、「どうしたら薬を出さずにすむか」を第一に、「出すとしても、どうしたら最低限に抑え、いつをやめどきとするか」を第二に考えなくてはなりません。
そのうえで重要なのが、この「さじ加減」なのです。
今現在、薬を飲んでいる方には、とても身近な話になってくると思いますが、はたしてあなたの、主治医は、あなたの状態に応じて、薬の量や種類をこまめに変えているでしょうか?
もちろん、できるだけ早く薬をやめることも考えなければいけませんが、薬を出している間もずっと、患者さんの体質や、効き具合、副作用の度合いによって処方を微妙に変えていく必要があります。
これこそ、医者の本領が発揮されるところです。
つまり、患者さんの状態をつぶさに観察しながら、臨機応変に処方を変えていくことができるかどうか。これが、医者が、プロフェッショナルとして求められる能力なのです。
この裁量がうまくできるかどうかが、言ってみれば医師免許の値打ちの一つでしょうし、そこにこそ医者の力量が現われると言えるでしょう。
マニュアルどおりの処方をするだけで、「さじ加減」のできない医者など、もはや医者とは呼べません。
それどころか、症状のボタンを押せばたちどころに、しかも正確に薬を出してくれるであろう「自動販売機」以下と言っていいでしょう。
「薬は短期で飲む」が鉄則
薬を飲むことには、ものすごいリスクをともなう。薬は、あなたの健康を損なうことはあっても、健康を促進することはありません。
こう言いきってしまうと驚く方もいらっしゃるかもしれませんが、本当にそうなのです。だから常用は断じていけないのです。
「胃腸薬くらいなら大丈夫だろう、害なんてないはず」といった例外も、認められません。
たしかに、胃腸薬は安易に処方される薬の代表格です。しかし、次のようなケースを知ったら、今後、おいそれと胃腸薬など飲めなくなることでしょう。
元気に暮らしていたおじいさん、少し胃腸の調子が悪いと訴え、近くの開業医にかかりました。開業医は急性胃炎と診断し、ごくふつうの胃腸薬(シメチジン)を処方しました。
おじいさんは早速、その薬を服用しはじめました。ところが翌日から、わけのわからないことを言いだしたり、奇声を発したりしはじめたのです。
まわりは、急に認知症が進んでしまったのかと騒然となりましたが、怪しいとにらんだ胃腸薬(シメチジン)をやめると、たちどころに症状はなくなり、ことなきを得ました。
医師の世界には、「新しい薬を飲みだすと、何が起こるかわからない」という格言があります。それほど、新しい薬を処方する際は要注意なのです。
それにしても、なぜ「ごくふつうの胃腸薬」が、そんな状態を引き起こしたのでしょうか?信じがたいことかもしれませんが、ここが薬の恐ろしいところです。
シメチジン(H2ブロッカー)は、もちろん胃に作用する薬なのですが、じつは頭、つまり神経や精神にも作用するのです。とくにお年寄りや、たとえば腎臓の機能の低下した人など少し解毒能力の弱い人が安易に服用すると、稀に「せん妄」や「けいれん」が起きたりするのです。
こうしたことを政府はあまり公表しませんし、処方する医師のほうも、リスクに無頓着すぎるケースが大半です。
たかが胃腸薬であっても、薬は薬、けっしてあなどってはいけないのです。
ただ、飲むのが短期であれば、場合によって、デメリットよりもメリットが大きくなることもあります。これが、薬の唯一の存在意義です。それ以外のケースで、薬=毒は飲まないに越したことはありません。
だからこそ、できる医者ほど薬を処方しないのです。
ただ、こうした善良な医者たちは、おうおうにして「ヤブ医者」のそしりを受けがちです。薬を安易にたくさん、気前よく出してくれる医者が「いい医者」だと誤解している患者さんがたくさんいるからです。
「あの先生は、言うたとおり、何でもすぐに薬を出してくれる、ほんまに親切なお医者さん?」こういうふうに薬に対していいイメージしか持っていない人には、本当に閉口してしまいます。
ですから、なおのこと、薬の功罪については、声を大にして何度でも言っておきたいところなのです。
できる医者ほど「薬を使わない」
薬をいくつ出しているかこれだけで、医者の力量が簡単にわかります。処方内容なんてくわしく見なくても、薬をたくさん出す医者にいい医者はいない、と見て間違いありません。
患者さんのなかには、薬をたくさん出してくれる医者ほどありがたがる人もいますが、これが大きな勘違いです。本当はまったく逆で、まともな医者ほど、処方する薬をいかに少なくできるかに腐心するものなのです。
反対に、能のない医者ほど、薬をたくさん出したがります。なぜなら、ひと言で言えば、自分の腕で患者さんを治療する自信がないからです。それ以外の理由があるとすると、単に儲けたいからにほかなりません。
薬が多くなるのは、患者さんが訴えた症状の数の分だけ、あるいはそれ以上に薬を処方しているだけだからです。
それくらいなら、医者でなくても、自動販売機でもできます。きっと自動販売機のほうがより正確でしょう。よく「3時間待ちの3分診療」などと言いますが、自動販売機なら、症状に合わせてボタンを押すだけ。3時間も待つ必要はありません。
というのは悪い冗談ですが、こんなことを言いたくなるほど、薬をたくさん出す医者というのは、何も考えずに、ただただ症状に見合うとされる薬を、ごくごく単純に足していっているだけなのです。
もちろん、そんな医者をありがたがる患者さんにも、問題があります。怠慢な医者と無知な患者。この組み合わせが、薬があふれすぎている日本の現状を生んでいるのです。
自信のない医者は、薬を出しておけば無難だと考えます。
なぜなら、たまたま薬の効果が出ればラッキーですし、たとえうまく効果が出なくても、あるいは薬の副作用で少々患者さんが苦しんだとしても、薬のせいにすればすむからです。
患者さんのニーズに合わせ、しかも天下の標準治療、つまりお上の指図どおりに医療行為をしているのですから、自分の非を責められることはありません。
もし、あえて薬を処方しないで、自助努力で自己治癒力を高めることを患者さんにアドバイスしたら、どうなるでしょうか。
何かちょっとでも症状が出ようものなら、「薬をくれなかったから悪くなったんだ」と責められます。ヤブ医者という悪評もきっと立ってしまうでしょうし、へたをすると、訴えられるはめになるかもしれません。
こうなるとわずらわしいので、医者にしてみれば、患者さんの要望どおり、薬を出しておいたほうが無難なのです。
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