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医薬品になるまでの臨床開発(治験)方法と仕事について

医薬品になるまでの臨床開発(治験)方法と仕事について

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医薬品の有効性を確かめる治験はある3つのルールではじめる
広域化する製薬企業における研究
製薬企業で医薬品研究に携わる人々の研究分野の裾野は広く、新規化学物質の探索研究だけでなく、医薬品として飲みやすくしたり、使いやすくしたりする製剤技術や、医薬品を効率よく生産するための生産技術の研究なども行なっています。

1つの医薬品が発売されると、その影響は日本国内だけにとどまりません。米国やEU諸国のみならず、新興国など、販売が承認された国々にその医薬品を必要としている患者がいる限り、供給をしていかなければなりません。

医薬品はもともとグローバルな製品ですが、人種や体格などによって効果に差があるといわれているため、販売している国によって医薬品の投与量などが違うこともあります。それぞれの国において開発治験を行ない、製造販売の承認を得なければなりません。

近年では、研究開発の拠点も日本国内にとどまらず、北米、欧州、アジアなど、グローバル化する傾向にあります。また、新興国と呼ばれる中国やインドなども、人口も多く医薬品の市場として有望視されており、研究開発におけるアジアの拠点として、中国の上海香港、シンガポールなどに置く製薬企業も増えてきました。

研究開発についても、世界同時開発など、グローバルに展開する方法が増えています。
過去では、治験コストの安さや承認までの速さなどを考慮して、治験環境の整った北米で先行開発して、一定の評価を得てから日本での開発を開始することもありました。

海外における先行開発については、安全かどうかわからない治験薬を海外で試して、信頼できる医薬品だけを日本で開発するという見方をされたようです。


臨床試験とは人間を対象に行う臨床試験
臨床試験とは、人間を対象に、新薬の有効性や安全性について調査する試験のことであり、治験とも呼ばれています。通常は医薬品企業が主体となって、国から医薬品としての承認を得るために実施します。

臨床試験を実施する場合、治験計画届書が必要になります。そのほかにも、①治験審査委員会の意見書・実施医療機関の長の承諾書など、②治験実施を科学的に正当と判断した理由書、③プロトコル(治験実施計画書)、④インフォームド・コンセントに用いられる説明文書と同意文書、⑤症例報告書の見本、⑥最新の治験薬の概要書を添付する必要があります。

これらの書類をもとにして、臨床試験実施の可否が判断されることになるのです。

医薬品の候補物質を見極める臨床開発(治験)
3つのフェーズで進められる
臨床開発(治験)では、厳格なルールが定められています。治験参加者である被験者を守る目的と、医薬品の候補物質の有効性や副作用を正確に調べるため、厚生労働省が定めた「医薬品の臨床試験の実施基準(GCP)」にもとづいて治験を計画し、情報の収集や管理を担当することになります。

通常、臨床試験は、第1相試験(フェーズⅠ)、第2相試験(フェーズⅡ)、第3相試験(フェーズⅢ)の、大きく3つの段階に分けられています。広義には、製造販売後調査を含む場合もあります。

①第I相試験(フェーズ1)
少人数の健康成人を対象に、少量の治験薬の投与量を段階的に増量して、安全性(有害事象、副作用)や、体内動態を検討するための試験です。
体内動態とは、その薬物が投与後どのぐらいの速さで「吸収」され、体内に「分布」し、どのように「代謝」され、どのぐらいの時間で体外に「排泄」されるかをいいます。

②第Ⅱ相試験(フェーズ2)
対象疾患として比較的軽度な少数の患者を対象に、病気の程度によってどのような有効性を発揮するか、副作用など安全性はどの程度か、投与量、投与間隔・期間など使い方を調べ、最適な体内動態などの検討を行なう試験です。
用法・用量を検討することがおもな目的なので、有効性・安全性を確認しながら徐々に投与量を増量させたり、プラセボ(偽薬)や標準的な治療薬を用いて比較したりします。

③第Ⅲ相試験(フェーズ3)
対象疾患を持つ多数の患者を対象に、これまでの試験で得られた安全性の検討、有効性の検証、使い方などを総合的に比較し検証する目的の試験です。

プラセボや標準薬を対象に行なう比較試験は公平性がたいへん重要であり、投与される患者側、治験を行なう医師側ともに、有効性や安全性に対しての心理効果が試験結果に反映されることがあります。そこで、 一般的に患者側と医師側の双方に、投与している薬物が治験薬なのかプラセボなのかを知らせない「二重盲検(ダブルブラインド)試験」が行なわれています。

治験にかかわる人々
治験は、十分な医療。検査設備がある病院で、専門の医師をはじめとした薬剤師や看護師などの治験コーディネーター(CRC)によって行なわれます。

医療施設側の煩雑な治験業務を支援する組織も存在し、治験施設支援機関(SMO)と呼ばれます。

また、製薬企業側の治験にかかわる業務を代行する開発業務受託機関(CRO)があり、集めたデータの管理(データマネジメント)や、治験の進捗状況確認などのモニタリングを行ないます。モニタリング業務を行なう担当者は、モニター(CRA)と呼ばれています。

患者の安全が最優先される治験にあたっては、同意が得られた患者の安全が最優先されます。医師などによる健康管理や相談の体制が整えられ、副作用などの症状が見られたとき、すぐに適切な処置が取れる体制のもとで進められます。

非臨床試験とは?
動物を用いた生物学的試験
非臨床試験は、動物を用いた生物学的試験を行って、開発候補品の有効性と安全性を評価するものです。 開発候補品が生体内でどのように作用するのか、どんな効果があるのか、どのような副作用が、どの程度あるのかなど、開発候補品の作用機序を解明することが目的です。

非臨床試験の結果を総合的に評価し、臨床試験に進めることの是非が判断されることになります。ちなみに臨床試験を始めるには、国に対して、被験者へのインフォームド・コンセントに用いられる同意説明書などとともに治験計画届書を提出する必要があります。


非臨床試験の分類
新薬の非臨床試験は、薬理試験、薬物動態試験、毒性試験の大きく3つに分類されています。薬理試験は、申請効能・効果を裏付けるための試験です。臨床試験と同じ投与経路で実施することが求められ、臨床用量との関係、作用機序の検討なども必要となります。

薬物動態試験は、薬物を動物に投与した後、体内でどのように吸収、体内分布、代謝、排泄されるかを把握するために行う試験のことです。

毒性試験は、安全性を把握するために動物あるいは細胞を用いて行う試験のことです。新薬の場合、毒性試験は「単回投与毒性試験」「反復投与毒性試験」「遺伝毒性試験」「生殖発生毒性試験」などを実施することが前提となります。

また、必要に応じて、開発候補品を局所に投与して、その刺激性を調べる「局所刺激試験」や、開発候補品が発がん性を示さないかどうかを6か月以上の長期にわたって調べる「がん原性試験」なども実施することになるのです。


臨床開発職の仕事
臨床開発職は、第1相~第3相の臨床試験と承認申請、第4相臨床試験といわれる製造販売後調査を担当しています。医薬品企業における広い意味での研究・開発職の50%以上を占めています。

具体的には、臨床試験段階では、プロトコル(治験実施計画書)を作成のうえ、厚生労働省に治験届を提出する仕事から始まります。その後、全国の病院を訪問し、治験の説明、依頼、契約を行います。

契約後は治験薬や検査に使う資材を納入し、病院側の治験に関わる人たちと治験が円滑に進むよう協議していきます。さらに治験の進行にともない、被験者のデータ回収や、データ解析も行います。

また、治験で問題が発生すれば、治験計画を見直し、新たなプロトコルを届け出ることになります。すべての臨床試験が終了した後は、承認申請に向けた資料を作成し、申請を行い、厚生労働省から追加資料を求められれば、それらも作成します。

承認発売後の製造販売後調査の段階では、製造販売後調査、試験を企画・立案して実施を進めていきます。この段階では、新薬の有効性と安全性を評価・確認して、そのデータを厚生労働省に報告するとともに、医療機関へフィードバックします。


臨床開発職に就くには
臨床開発職には、臨床試験や製造販売後調査に関する専門知識が求められることになりますが、これらの仕事では、医療機関の医師・薬剤師といったスタッフと接する機会も多いため、コミュニケーション能力や行動力も必要となるでしょう。

そのため、医薬品企業に入社後、医薬情報担当者(MR)を経験した人が、臨床開発職に就くことが多いです。そのほかには、臨床試験に関する専門知識をもつ薬学系の大学院修士課程修了者が、採用後すぐに配属されることもあります。

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